包丁の音・煙の匂いを感じながら食事を楽しんでほしい。1年で蘭亭に“出戻り”したワケ
始めに、蘭亭との出会いを教えてください。
農業高校卒業後、辻調理専門学校の2年制のコースに進学しました。1年次に和洋中幅広く料理を学ぶ中で、中華料理の格好良さに惹かれ、2年次は中華を専門に学ぶことに決めました。そのタイミングで友人にアルバイト先として蘭亭を紹介されたのが蘭亭との出会いです。
なぜ中華料理に惹かれたのですか?
理由はシンプルで、鍋ひとつで幅広い料理を作れるところ、料理人が大きな包丁を使って切りものをする姿、そんなところに憧れたんですよね。ですがきちんと学んでいくうちに、中華の持つ「大胆に見えて繊細」な部分に魅力を感じるようになり、どんどんのめりこんで行きました。
アルバイトとして働いていた期間は、どのような仕事を任されていましたか?
当時から、鍋以外はすべて任されていました。洗い場、野菜の下処理などはもちろん、板も前菜もやらせてもらっていて、アルバイトながらとてもいい経験を積ませてもらっていたと思います。
そのまま蘭亭に入社されたのですか?
いえ、実は専門学校卒業と同時に蘭亭のアルバイトも卒業し、1度ホテルに就職しているんです。新卒の就職先としてホテルを選んだのは、漠然と格好良さそう、面白そうと思ったから。ホテルでの料理を見てみたい、有名な人が作っているものから学びたいと思っていましたが、入ってみると、ホテルには思い描いていた以上にたくさんの厳しいルールが設けられていました。
たとえばどのようなことですか?
今は変わっているかもしれませんが、当時は洗い場1年、前菜が終わるまでに5年、鍋を振れるようになるまで10年、といったロードマップのようなものがありました。価格帯の高いホテルの料理をするためには必要な修行だったのかもしれないのですが、早く成長したいと考えていた僕にとって、それらはとても長い道のりに見えたんですよね。「や那谷りたいことはいっぱいあるのに、何もやらせてもらえない」と思ってしまって……。
また、僕が入社したホテルはクローズキッチンで、お客様と話す機会はまったくありませんでした。自分の料理を通してお客さんの喜ぶ顔を見たいし、お客さんにも包丁の音、煙の臭いを感じながら食べてもらいたい。そんな理想はホテルだと叶えにくいと感じ、1年ほどで蘭亭に“出戻り”することを決めました。
次の飲食店へ、という道もあったかと思いますが、そのタイミングで再び蘭亭を選んだのはなぜでしたか?
アルバイト時代の経験から、蘭亭が「信じて任せてくれる店」だということを知っていたからだと思います。先ほども伝えたように、蘭亭はアルバイト時代からいろんな調理を経験させてくれていました。いろんなことを任されるから、それに伴って責任感も生まれ、「次はあれをやりたい!」という向上心も刺激される。そんな環境にもう一度身を置きたくて、蘭亭を選びました。気づけばあれから15年。蘭亭のなかでも1番の古株になりました。