飲食業界の暗黙の“当たり前”を無くしたい
喜多さんは、2021年に蘭亭の飲食事業部 部長として参画されています。喜多さんご自身のこれまでのキャリアも教えてください。
大学卒業後、洗剤メーカーの営業職を経て、食品の小売販売業を行う会社で約8年勤務していました。店頭販売スタッフを経て、マーケティング、店舗統括責任者など、さまざまなポジションを経験するなかで、顧客の平均購入単価を3,500円から7,000円に大幅に増価させたり、店舗の平均月商を5倍にしたりと、戦略を立て、実行することで成果が見える体験を重ねてきました。
蘭亭に参画する直前の数年は、計9店舗の新規出店をリードし、スタッフ管理と育成、収支管理、採用活動、事業計画の策定など、店舗経営に関する様々な業務に携わってきました。この経験を生かしたいと選んだ次のステージが蘭亭でした。
長く飲食業界で働く中で、感じていた課題はありましたか?
これまで、商品を販売する先として、そして自身が働く場として飲食店と関わってきました。その中で感じていた課題は、労働時間の長さと給与の低さ――より抽象的に言うと、飲食業界に携わる人の社会的地位、すなわち待遇が低いことでした。
実際に蘭亭でも、私が入社する前の年間休日は96日、評価制度が存在せず昇給の基準がわかりにくいといった課題がありました。また、明確なキャリアパス(キャリアアップのために必要な道筋)も示されていなかったため、若手は長く「先輩の背中を見て学ぶ」という状況になってしまっていました。蘭亭の経営に携われるのであればまずはそれらを改善したいと強く思っていましたね。
たしかに飲食業界は、業界全体として長時間労働・低賃金の印象があります。裏を返せば、「長時間労働・低賃金のままでも経営できてしまう」ということだと思うのですが、そこに踏み込んで改善していこうと思ったのはなぜですか?
父親が経営者だったことも影響してか、私は若いころから経営に関するさまざまな書籍を読んでいました。21歳で京セラグループ代表・故 稲盛和夫さんの本を読んだときに、京セラの経営理念である「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」に感銘を受けました。組織の利益が上がりさえすればいいと考える経営者もいるなかで、本物の経営者は、社員の幸せも心から考えているのだ、と知ったんですよね。
その考えが長く自分の中に残り続けていました。蘭亭に入るとき、「飲食業界が“業界全体として”社員の幸福にまで目を向けられていないのだとしたら、蘭亭を業界第一人者にすればいい。自分がそこまで引き上げるんだ」と考えました。